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製版会社 アート・スキャナ・サービス


美しい印刷物をつくるためには、「製版」という工程で、色の職人たちが、発色調整を行わねばならない。その製版のトップ企業であるアート・スキャナ・サービスの取締役専務 上條健一氏に高品質の製版を行うために、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)、QMS(品質マネジメントシステム)、MIS(経営情報システム)がいかなる役割を果たすかを詳しく聞いた

■ アートスキャナの業態 ~ 色の職人集団

-- 今回は、いつものお客様事例とは趣向を変えて、「ISMSをどう経営に生かすか」というテーマで聞くことにします。まずアートスキャナの業態を教えてください。 


アートスキャナは、商業印刷の工程の中の、「製版」という工程を受け持っている会社です。化粧品のポスター、旅行のパンフレット、レストランのメニュー、牛乳パックなど様々な印刷物の製版を手がけています。

-- アートスキャナの強みは何ですか。

「美しい色の版を作ること」です。化粧品のポスターでが、モデルさんの肌の色が美しく見えねばなりません。旅行ポスターにおいては、旅先の景色の「空気感」までも再現し、旅心を誘うようなポスターを作れねばなりません。

アートスキャナの技術者は、「色の職人たち」です。デジタル印刷においては、色には番号が振られています。技術者に、色を見せると、たちどころに色番号を言い当てます。ほとんどの色の色番号を暗記しているのです。

■ ISMS、MIS、QMSが果たす役割
    ~ 素晴らしい会社になる。強い会社になるための仕組み。


-- アートスキャナでは、今、ISMSを経営にどのように生かしているのですか。

その質問にお答えするには、ISMSだけでなくQMS(Quality Management Standard:品質管理標準)やMIS(Management Information System:経営情報システム)などをセットにして、根本からお話しせねばなりません。

-- では根本からお聞きします。まず御社の経営におけるMIS、QMS、ISMSの役割を教えてください。

第一に、製版という、職人さんの手作業に頼りがちな曖昧な仕事を、完全に「見える化」し、高品質の製版を、安定制作できる、「お客様のための、すばらしい製版会社」になること。第二に、原価計算や受発注処理を明確に行い、「理不尽な注文に泣き寝入りしない強い製版会社」となること。この二つを実現することが、MIS、QMS、ISMSの導入の目的です。

-- MIS、QMS、ISMSの互いの関係はどうなりますか。 


MISは、製版を行うための基幹システムです。そのMISの取り扱い手順を標準化するための規格がQMS、ISMSという位置づけになります。

製版も製造業であり、このオフィスは「工場」と同じです。工場では、普通、生産管理システムを導入し、進捗管理や、原価計算を行います。印刷業にとってのMISは、工場にとっての生産管理システムに相当します。そしてISMS、QMSは生産管理システムを正しく使って、良い製品を製造するための、標準業務手順に相当します。

■ MIS(経営情報システム)の導入で実現したかったこと

-- アートスキャナがMISの導入により実現したかったことは何ですか。


以下の三点です。

  1. 工程管理、原価計算などの徹底

  2. 工程の完全ペーパーレス化(作業の手戻りの根絶)

  3. 進捗、受発注の明確管理(理不尽な注文への”泣き寝入り”の防止)

■ MISの営業面でのメリット ~ 見積もり時の、品目と価格の標準化

-- 順々にお聞きします。「工程管理、原価計算などの徹底」により、具体的にどんなメリットが生じますか。

例えば、営業面でメリットがあります。MISを導入することにより、見積もりや受注時の品目と価格を標準化できます。MISがない場合、同一の得意先であっても、同種の注文に対し、価格や品目内容が異なることが生じやすくなります。

同じ商品なのに、値段や内容が違っているようでは、顧客の信頼を失いますし、我々の利益も安定しません。MISの導入により、この危険がなくなります。

■ MISの製造面でのメリット ~ ペーパーレス化

-- 第二のポイント、「工程の完全ペーパーレス化(作業の手戻りの根絶)」とは具体的には。


MISは、必ずペーパーレスとセットで導入するべきです。弊社では、MISの導入と共に紙帳票を完全に追放しました。

紙ベースの工程管理は、作業内容の変更が生じた時に、混乱を招きやすいと言えます。現場は、作業指示書への手書き修正や赤字入れで変更に対応しようとします。しかし何枚もの作業指示書に正確に手書き修正を行うのは困難です。もし伝票一枚でも、修正漏れや書き忘れがあったとしたら、一つの仕事に対し、複数の作業指示が歩き出すことになります。

これは、いつ事故がおきてもおかしくない危険な状態です。工程の矛盾による、作業の手戻りの発生、それに伴う原価の高騰、進捗管理の混乱、最悪の場合、納期遅れなどが発生しかねません。

-- アートスキャナでは工程管理をどのように行っているのですか。


弊社が独自開発したMIS(「柔ら@貝」では、紙はいっさい出力しません。作業員の机の上に、帳票が置かれることはありません。すべての作業指示情報は、JDF(Job Discription Format:作業記述標準形式)という規格に則り、各作業員のパソコンに電子的に配信されます。

作業内容の変更も、すべてMISへの入力を通じて行います。変更内容はMISを通じて、すべての作業員にリアルタイムに伝わります。転記ミスや入力漏れは原理的にありえません。

これにより、作業の混乱、手戻りは最小限となり、原価の高騰を防止することができます。顧客満足の向上と粗利の確保が、同時に実現できます。

■ MISの効果 ~ "泣き寝入り"しない体制作り

-- 「進捗の明確管理(それを通じての”泣き寝入り”の防止)」とは

印刷の営業マンは、若い頃、一度は苦い経験をします。

ある日、得意先がとつぜん電話で超短納期の仕事を依頼してくる。使用する用紙はちょっと特殊で、しかも大量に必要。あわてて用紙業者に電話で発注して、納期に間に合わせようとする。そんな時に限って、用紙が納入された後になって「あの仕事はボツになりました」とあっさりキャンセルをくらう。そして「この分はこんど他で埋め合わせるからさー」と意味不明のやりとりが続く。

これは、飲食店で焼き肉定食を注文し、料理が出来上がる頃になって、やっぱりラーメンに変更と言い直すのにも等しい、不条理な事態です。この不条理がまかりとおるのが、印刷業界の遅れている点です。

このような不条理を無くすためにも、印刷業者側で、業務手順、発注手順を明確定義し、理論武装、情報武装する必要があります。

■ ISMSとQMSの役割 ~ MISという仏に魂を入れる

-- ここまででMISの位置づけと効果が分かりました。続いて、ISMS、QMSの位置づけと効果についてお聞きかせください

仏作って魂入れずという言葉があります。MISという情報システムを作っただけで、すべての問題が魔法のように解決するわけではありません。業務手順、運用手順を明確に定義し、その実行を周知徹底させて、はじめてMISの導入効果が上がります

-- なぜQMSとISMSの二つが必要なのですか。

しかしQMS(品質管理標準)は、コンピュータが一般化する以前に作られた規格なので、情報の品質確保の概念がありません。その部分は、ISMSで補わねばなりません。

■ ISMS導入のコツ ~ 規定でガチガチにしなくても合格できる

-- アートスキャナは、今回、どのようにしてISMSに対応したのですか。

ISMSの導入で、業務を『がんじがらめ』にしないよう気をつけました。ISMSというと、「ガチガチに規制する」というイメージがありますが、実際は、柔軟性が高い規格です。自社に合った業務手順を自分の頭で考え、それが事業の継続性やセキュリティレベルを十分に担保するものであれば、許容されます。

-- 「ISMSの導入で、業務を『がんじがらめ』にしないよう気をつけた」…。何かの実例を教えていただけますか。

入退室管理のセキュリティの例でご説明します。今日、みなさんに社内に入っていただきました。しかし、みなさんは胸に「VISITOR」の名札をつけることもなければ、入室時に社名や名前を紙に書いたりもしませんでしたよね。

-- 言われてみればそのとおりです。そんな、ゆるい運用で、ISO27001を取得できたとは意外です。

何を以て「ゆるい」と定義するかです。弊社では、お客様にオープンに接したいと考えているので、名札や入室者名簿は使いたくありませんでした。そのかわり、「社内に外部の人が来た場合は、必ず誰かがアテンドする」、「知らない人がいたら挨拶する」というきまりを設けました。こうすればセキュリティレベルとお客様コミュニケーションをバランス良く両立させられます。

要は、自分の頭で考えて、自社に合った仕組みをつくればよいのです。ISO27001はそれを受け入れてくれる柔軟な認証制度です。

■ ISMS導入のコツ ~ USBメモリは絶対に有害

-- ISMS導入に伴い、禁止した行為はありますか。

USBメモリは全面禁止にしました。悪意を持った人間は、USBメモリを積極活用します。あまり公にされていませんが、重要なデータが持ち出されるケースのほとんどの場合は、手のひらに隠れる、USBメモリが媒体になっているようです。

インターネットは「悪意を持った人は利用しないこと」を前提にしたシステムです。裏を返せば、ひとたび悪意を持つならば何でもできてしまう恐ろしいインフラです。

USBは便利ですが、特別な許可がない限り、持ち込みや使用を禁止することにしました。

■ ISMSは社内でどれぐらい遵守されているか

-- 今、ISMS業務手順は、社内でどのぐらい遵守されていますか。

ISMSやQMSという言葉を社員が意識することはほとんどありません。ISMS(QMS)は、それほど日常の業務手順に溶けこんでいます。

新入社員が入社し、業務手順を習ったとします。業務は、かならずMISを使って行います。MISの使用方法は、ISMS(QMS)に準拠しています。つまり、その新入社員は、無意識のうちにISMS(QMS)に準拠した動きを会得することになります。いきなり審査員が抜き打ちでやってきたとしても、その新入社員は合格点をもらえるでしょう。

■ ISO27001を取得して良かったと思うこと
   ~ 普段、考えたくないことをあえて考えさせられた

-- その他、ISO27001を取得して良かったと思うことはありますか。

ISMSでは「事業継続」が重要なキーワードになります。地震が起きても、火事が起きても、雷が落ちても、台風が来て近くの神田川が増水して、地下一階のこのオフィスに水が流れ込んだとしても、それでも事業が継続できるよう、業務手順を明確化しないとISO27001を取得できないのです。

このような「大事なことだが、普段は考えたくないこと」を、無理矢理考えさせられる機会が得られたのは、良かったと思います。

■ 部屋全体がクリーンルーム


-- ところで、上条さんの後ろにあるそのマウントラックはもしや…


はい、これが弊社のMISです。

-- 基幹システムなのにクリーンルームに入れなくて大丈夫なのですか。

弊社では30台の空気清浄機を回して、製版機械の大敵であるゴミやホコリを、徹底的に排除しています。清浄機械の会社によれば、このオフィスは、ホコリがほとんどゼロの状態だそうです。いわば社内全体がクリーンルームなので、わざわざクリーンルームを設ける必要がないのです。

■ ワークストラストへの評価

-- 最後に、今回のISO27001認証取得のコンサルティングを行ったワークストラストへの評価をお願いいたします。

ワークストラストのコンサルタントは、他の会社のコンサルタントに比べ、思考力、柔軟性において優っていると思います。言い換えるならば、ワークストラストのコンサルタントとなら、「議論ができる」という印象でした。

私の知る限り、ほとんどのISO27001コンサルティング会社は、自分の「ひながた」を使って、相手企業のかわりに認証申請書を作ってあげるという、ISO27001認証申請の代行会社でした。

そのようにコンサルティング会社に、思考を丸投げしてISO27001認証を取得しても意味がありません。ISO27001の取得するからには、それで社内の業務が進化するようでないと。

有意義な形でISO27001取得を実現するには、コンサルタントとの「議論」が不可欠です。ISO27001取得を通じて実現したいこと、良くしたいこと、あるいはISO27001取得のためとはいえ譲れないこと等々を、徹底的に話し合う必要があります。

ワークストラストの渋谷コンサルタントにはISMSについての深い知識がありました。知識を押しつけるのではなく、こちらが自分の頭で考えるよう、導いてくれました。また、審査員から見て、ここまではOKだがここからはNGという、見極めもできていました。良いコンサルタントに巡り会えたと思っています。

お忙しい中、有り難うございました。

※ アートスキャナのWebサイト
※ 取材 カスタマワイズ
※ 取材日時 2007年月

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